この記事の要点
自衛隊から民間企業への転職を考えたとき、転職エージェントはとても頼りになる存在です。求人を紹介してもらえるだけでなく、企業がどんな人材を求めているのか、どんな経歴が評価されるのかといった、自衛隊の常識内では見えてこない情報も持っています。
ただし、自分のキャリアそのものをエージェントに「おんぶにだっこ」で丸投げするのは、控えめに言って極めて危険です。
転職エージェントだからといって、自衛隊の特殊な仕事を詳しく知っているとは限りません。自分が自衛隊で何をしてきたのか、何をしたいのかは自分で言語化して伝える。その代わりに、民間企業のリアルな内情や転職市場については教えてもらい、面倒な選考対策や条件交渉ではプロの力を借りる。
実際に複数の転職エージェントを使って転職した経験から、私はこのくらいの役割分担がちょうどいいと思っています。
最初は「プロなら自分より自分のことが分かる」と思っていた
自衛隊から初めて転職しようとすると、分からないことだらけです。
どんな会社があるのか。自分はいくらくらいの年収を狙えるのか。職務経歴書には何を書けばいいのか。そもそも、閉鎖空間(自衛隊)でやってきた仕事がシャバ(民間企業)で何の役に立つのか。
私も転職活動を始めたころは、こうしたことがほとんど分かりませんでした。
そこで頼りにしたのが転職エージェントです。
当時の私は、転職エージェントという「プロ」にかなり大きな、それこそ幻想に近い期待を持っていました。少し話せば私の隠れた才能を見抜き、「あなたにはこの会社のこのポジションが天職です!」と導いてくれ、職務経歴書も魔法のように直してくれる……。
今思えば、こんな神エージェントどこにいるんだって思います笑。 転職のプロだからといって、誰しもが強い領域や業界があります。悩める自衛官をいきなり適切に導ける神エージェントはいません。
実際に何人ものエージェントと話して痛感したのは、「転職のプロであること」と「自衛隊の仕事や私自身を理解していること」は、まったくの別物だということでした。
どういうことかというと、有能なエージェントでも、自衛隊の仕事は知りません
これは、質の悪い転職エージェントだけの話ではありません。
私が転職活動をしていたとき、防衛関連ビジネスを拡大しているコンサルティング会社などの求人を扱っているエージェントとも話しました。
その中には、かなり丁寧に話を聞いてくれる人もいました。単に「自衛隊で何をしていましたか」と聞くだけではなく、どのレベルの運用に関わっていたのか、自衛隊全体の施策にどの程度関与していたのか、といったところまで細かく掘り下げてきます。
さらに印象に残っているのは、経歴だけではなく、私がこれから防衛分野にどう関わりたいのかという考えまで聞いてきたことです。防衛関連市場が伸びているから「とりあえず元自衛官ブチ込んどけ」という乱暴な感じではなく、私の経験や考え方まで確認したうえで、合いそうな企業を紹介してくれました。
それでも、自衛隊の仕事を最初から全部理解していたわけではありません。だからこそ、細かく質問していたのだと思います。
考えてみれば当然です。
「対空ミサイル部隊の小隊長として約30人を指揮していました」
「連隊本部で訓練を担当する幕僚をしていました」
自衛隊の中にいる人間なら、こうした言葉から仕事の規模や責任を一発で想像できます。しかし、外の世界の人間からすれば「小隊長」も「幕僚」も、歴史の教科書か映画の中の役職みたいなものです。普段何をしているのかも、何を調整しているのかもピンときません。
これはエージェントが勉強不足というより、自衛隊の仕事がそもそも外からはブラックボックスすぎるのです。相手が転職のプロだからといって、この壁が自動的に消え去るわけではありません。
自衛官というだけで、施工管理へ誘導されたこともある
一方で、まったく違うタイプのエージェントもいました。
私の場合、とにかく「施工管理」の仕事をゴリ押ししてくる担当者がいました。
最初にはセキュリティ系の求人も紹介され、面談自体の感触も悪くありませんでした。ところが、その求人については後から「条件面で折り合わなかった」という曖昧な説明だけでフェードアウト。
一方、施工管理の求人については、
「この会社、受かったんですね!」
「ほかにもこの会社は条件がすごくいいですよ」
と、鼻息荒く話を進めようとしてきます。
もちろん、本当にセキュリティ系の求人では条件が合わなかったのかもしれません。ただ、当時の私には「自衛官=耐久力がある=現場仕事=よし、施工管理!」という、あまりにも短絡的な脳内変換が透けて見えました。
転職エージェントも、霞を食べて生きているわけではないビジネスです。一般的には、紹介した人の採用が決まれば企業側から報酬を受け取ります。
その担当者が、マージンを目的に手っ取り早く施工管理へ誘導していたのかは分かりません。ただ、求職者にとっての「最適なキャリア」と、エージェントにとっての「転職を成立させやすい(=お金になりやすい)求人」が、常にイコールとは限らない。その大人の事情は、転職エージェントと話すときに頭の片隅に置いておくべきでしょう。
逆に、何もしてくれないエージェントもいた
もっと単純に、話していて「あ、これ時間の無駄だな」と感じた人もいました。
転職市場について詳しい話を聞こうとしても、返ってくるのはネットで拾えるような一般論ばかり。こちらがキャリアについて相談しても、
「いろいろなものを見ていれば、そのうち視界が開けてきますよ」
なんて、どこかの占い師か仙人みたいなフワッとしたアドバイスしか出てきません。「そうですね」「なるほど」と相槌はプロ級ですが、肝心の市場感も、具体的な選択肢も、こちらの経歴への見立てもゼロ。
そのくせ、妙な安心感は与えてくるのだから、「カウンセラーに転職したほうがいいんじゃないですか…?」と、転職の相談をしているのに、エージェントに転職を勧めたくなってしまいました…
転職エージェントといっても、本当にピンキリです。だから私は、エージェントという肩書きを見ただけで「この人は自分より自分のキャリアに詳しいはずだ」と盲信するのはやめました。
自分のキャリアは、エージェントに丸投げしない
こうした経験から、転職エージェントに「私にはどんな仕事が向いていますか?」と丸ごとお任せするのは絶対におすすめしません。
特に自衛官の場合、相手が自衛隊の仕事を十分に知らない状態で「向いている仕事」をひねり出そうとすれば、どうしても外から見えやすいステレオタイプで判断することになります。
- 部下を持っていたからマネジメント。
- 体力がありそうだから現場。
- 規律のある組織にいたからオペレーション。
- 防衛省にいたから防衛関連企業。
外から見ればそんなものです。もちろん、それらが間違っているとは限りません。
ただ、自衛隊でやってきた仕事には、それ以外の要素も山ほど含まれています。たとえば「小隊長」一つをとっても、単に30人を号令で動かしていたわけではありません。計画を作り、教育し、進捗を管理し、上級部隊と調整し、限られたリソースを配分し、トラブルの火消しをする。そうした泥臭い仕事の積み重ねです。
どの部分が自分の強みなのか。今後どのスキルで食っていきたいのか。逆に、もう絶対にやりたくない仕事は何なのか。
ここまでは、自分自身の頭で考えておく必要があります。
エージェントには「民間側の情報」を教えてもらう
では、転職エージェントは必要ないのかというと、まったく逆です。うまく使い倒せば、これほど頼りになる存在はありません。
ポイントは、自衛隊について分かってもらうのではなく、民間企業について教えてもらうことです。
自衛隊に長くいると、シャバの会社がどうやって人を採用しているのか、どんな能力にいくら払うのか、どんな人材に飢えているのかが本当に分かりません。ここはエージェントのほうが圧倒的に強い領域です。
求人を紹介されたら、単に「受けます」「受けません」と答えるだけでなく、ちょっと意地悪なくらい質問してみましょう。
- 「なぜ、数ある中でこの求人を私に紹介したんですか?」
- 「この会社は、私のどの経験をお金に換算しそうですか?」
- 「逆に、企業側が私に対してネックに感じそうな部分はどこですか?」
- 「入社した場合、具体的にどんなミッションを期待されていますか?」
こうした質問への答えは、求人そのものを判断する材料になるだけでなく、その担当者が「自分のことや企業側のニーズをどこまで深く理解しているか(=有能かどうか)」を値踏みする材料にもなります。
自分が自衛隊で何をしてきたのかは、自分が一番詳しい。
その経験が民間企業からどう見えるのかは、エージェントから情報を引き出す。
この役割分担に徹すると、エージェントとの面談が有益な情報収集の場に変わります。
面接対策や条件交渉では、プロに頼ってよかった
一方で、「ここは素直にエージェントに頼って大正解だった」とはっきり思うこともあります。
私の場合、その一つが面接対策でした。担当者だけでなく、社内の面接対策のプロを引っ張り出してきて、何度か模擬面接をしてくれました。
これは本当に助かりました。自衛隊の常識に染まった人間にとって、民間企業の面接官が「どのポイントでドン引きし、どのポイントで食いつくか」は自覚しにくいものです。ここは企業側を知り尽くした人間からのダメ出しを受ける価値が大いにあります。
条件交渉でも、結果的にかなり助けられました。
私はもともと年収に強いこだわりを見せておらず、採用側にもそう伝えていました。それでも最終的には、転職前と比べて年収は約2倍に跳ね上がったのです。
もちろん、私の年収が上がれば上がるほどエージェント側の報酬も増えるという、彼らの事情があったからこそ本気を出してくれたのでしょう。生々しい話ですが、私一人の交渉力で同じ条件を引き出せたかといえば、絶対に無理でした。
自分のキャリアの方向性を決めることと、決めた会社に入るためのテクニック、そしてお金の交渉をすることは分けて考えるべきです。後者については、プロの交渉力をフル活用する価値があります。
転職先を決めたのは、結局自分だった
最終的に、いまの会社へ行くと決断したのは自分自身です。
エージェントから「ここが正解ですよ」と答えを授かったわけではありません。いろいろな企業を知り、話を聞き、選考の荒波に揉まれる中で、自分なりに考え抜いて決めました。
一方で、その過程ではエージェントというツールを徹底的に利用させてもらいました。
- 企業との接点を作らせる。
- 企業側の裏事情を吐かせる。
- 面接の練習台になってもらう。
- 面倒な日程調整を丸投げする。
- そして、給料の交渉をしてもらう。
こうして振り返ると、転職エージェントに任せるべきことと、自分でやるべきことの境界線はかなりはっきりしています。
自分が何をしてきたのか。
何が得意なのか。
これから何をしたいのか。
そして、最後にどこへ行くのか。
そこは絶対に自分で考える。
その一方で、民間企業や転職市場についての情報収集、企業との橋渡し、選考対策、条件交渉ではエージェントの力をしたたかに借りる。
転職エージェントは、あなたの人生の答えを教えてくれる「神様」でも「先生」でもなく、うまく使い倒すべき「優秀なビジネスパートナー」です。
自衛隊側の情報は、自分から渡す。
民間側の情報は、エージェントから引き出す。
そして、互いの得意なところを持ち寄って転職というプロジェクトを成功させる。
少なくとも私自身は、実際に自衛隊から民間へ飛び出してみて、これくらいの距離感で転職エージェントと付き合うのが一番だと思っています。













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