自衛官から民間企業に転職すると、年収はいくらになるのか。これは、転職を考え始めたときにかなり気になる話だと思います。私も当然気にしていました。
結論から言うと、「自衛官から民間に転職すると年収は上がる」「下がる」と一概には言えません。というより、もっと身も蓋もないことを言えば、年収は「元自衛官だからいくら」というより、どの業界の、どのポジションに入るかでかなりの部分が決まります。
私自身は自衛隊からコンサルティング会社へ転職し、結果として年収はおよそ1.5倍になりました。私の周囲の元自衛官でコンサル業界へ転職した人の中には、2倍近くになったケースもあります。ただし、これは「自衛官は民間へ行けば給料が上がる」という話ではありません。逆に大きく下がる人もいます。
だから本当に考えるべきなのは、「自衛官の転職後の平均年収はいくらか」ではなく、自分がどの業界の、どのポジションを狙い、その給与レンジに入るために何が必要なのかです。
中途退職した自衛官の「転職後平均年収」は、実はよく分からない
まず前提として、中途退職した自衛官の転職後年収を体系的に追った統計は、少なくとも私が調べた範囲では見当たりませんでした。防衛省は退職自衛官の再就職支援に関する資料を公表していますが、主な対象は若年定年退職者や任期満了退職者です。
一方で、30代や40代で自分の意思で自衛隊を辞めた人が、その後どの業界へ転職し、どのくらいの年収になったのか。そこを継続的に追ったデータは、ほとんどありません。
もっとも、仮にそうした平均年収が分かったとしても、転職する本人にとってはあまり意味がないとも思います。例えば、同じ元自衛官でも、警備会社へ転職した人、メーカーの営業になった人、保険営業になった人、IT企業へ行った人、コンサルタントになった人では、そもそも給与体系が違います。
階級も年齢も専門性も違う人たちを全部まとめて、「元自衛官の平均年収は○○万円です」と言われても、それを自分の転職にどう使えばよいのかは微妙です。マクロな統計としては意味があるでしょう。ただ、「自分はいくら狙えるのか」を考える材料としては、かなり粗すぎます。
年収は「元自衛官だから」ではなく、業界とポジションでほぼ決まる
民間企業へ転職してから強く感じたのは、給与にはかなり明確な「相場」があるということです。もちろん会社ごとの差はありますし、個人の評価によって上下もします。それでも、どの業界で、どの職種で、どのランクにいるかによって、おおよその給与レンジは決まっています。
例えば、同じ35歳でも、ある業界では年収500万円前後が中心かもしれません。別の業界では700万円前後が普通かもしれません。さらに別の業界では、一定以上のポジションなら1,000万円を超えることも珍しくありません。
つまり、「自衛隊で年収600万円だったから、民間でも600万円くらいだろう」とは限らないのです。転職前の給与がそのまま民間で引き継がれるわけではありません。どの給与テーブルに乗るかが変われば、年収も変わります。
私の場合、年収が上がったのは「自衛官経験の値段が上がった」からではない
私自身は、自衛隊からコンサルティング会社へ転職して、年収は結果としておよそ1.5倍になりました。周囲の元自衛官でも、コンサル業界へ転職して2倍近くになった人を見ています。
こう書くと、「自衛隊経験はコンサル業界で高く売れるのか」と思われるかもしれません。しかし、少し違います。
私の場合、コンサルティング会社の上位スタッフ、いわゆるシニアランクのポジションに入りました。だから、そのポジションに設定されている給与レンジに乗ったのです。自衛隊時代にやってきた仕事へ、突然1.5倍の値札が付いたわけではありません。
自衛隊で経験した計画、組織運営、関係者との調整、リスク管理などを民間でも通用する形に整理し、それを使えるポジションへ移った。その結果として、給与レンジが変わりました。
ここはかなり重要だと思っています。「自衛隊経験は市場でいくらなのか」と考えるより、自分の経験を使って、どのポジションに入れるのかと考えた方が現実的です。
もちろん、転職して年収が下がることもある
反対に、民間へ転職して年収が下がるケースも珍しくありません。防衛省が公表している若年定年退職者向けのモデルを見ると、現役時代の給与と比べて、再就職後の賃金が大きく下がるケースが想定されています。
これは別に異常なことではありません。長年自衛隊の中で積み上げてきた階級や勤続年数による給与体系から、別の労働市場へ移れば、給与の決まり方そのものが変わるからです。
中途退職する幹部の転職先として、私が自衛隊にいた頃によく耳にしたのが保険営業でした。会社によって制度は違いますが、最初の数年間は比較的厚めの固定給があり、そこに営業成績による報酬が乗る。その後は固定部分が減り、歩合への依存度が高くなるタイプの給与体系もあります。
こういう仕事の場合、転職初年度だけを見るとかなり魅力的に見えることがあります。しかし、初年度の提示年収だけを見ても、長期的な収入は分かりません。その会社で3年後、5年後にどんな給与体系になっているのか。そこまで見ておく必要があります。
「今の年収を維持できるか」だけで転職先を決めない
自衛官が転職を考えるとき、「今より給料が下がらない会社に行きたい」と思うのは当然です。私もその気持ちはよく分かります。
ただ、転職してから考えるようになったのは、初年度の年収だけでキャリアを判断すると、かなり視野が狭くなるということです。
例えば、ある仕事なら初年度700万円だが、数年たっても750万円程度。別の仕事なら初年度600万円だが、経験を積めば800万円、900万円というポジションが普通に存在する。そういうことは十分にあります。
どちらが良いかは、当然その人の事情によります。家族がいて収入を落とせない人もいれば、多少下げてでも長期的なキャリアを作りたい人もいるでしょう。
ただ、少なくとも、「転職直後にいくらもらえるか」だけではなく、「5年後にどの給与レンジにいる可能性があるか」まで見た方がいいと思います。
では、自分が狙える年収はどう考えればいいのか
私は、平均年収を調べるよりも、逆算した方がいいと思います。まず、自分が将来どのくらいの年収を得たいのかを考えます。
例えば5年後に800万円を目指すとします。次に、年収800万円が現実的に存在する業界や職種、ポジションを探します。求人情報を見るだけでなく、転職エージェントから実際の求人や採用水準を聞くのも、相場を知る一つの方法です。ただし、キャリアそのものをエージェント任せにするのはおすすめしません。自衛官が転職エージェントをどう使うべきかについては、別の記事で詳しく書いています。
そのうえで、そのポジションに求められている経験や能力と、自分が自衛隊でやってきたことを比べます。ここで初めて、自衛隊時代の経験の棚卸しが必要になります。
例えば、次のような経験です。
- 人を指揮した経験
- 計画を立てた経験
- 多数の関係者を調整した経験
- プロジェクトを進めた経験
- リスクを管理した経験
- 教育や人材育成の経験
- ITや通信の専門性
- 語学力
- 調達や会計の経験
こうしたものが、そのまま評価されるとは限りません。民間企業から見て何ができる人なのかが分かるように、一度分解して整理する必要があります。
そのうえで足りない経験を確認します。もし今すぐ年収800万円のポジションに届かないのであれば、それで終わりではありません。「まずこの仕事を2年やる。その間にこの経験を積む。その後、次のポジションを狙う」と考えればいいのです。
最初の転職で完成形に行く必要はない
転職というと、つい一回の勝負のように考えてしまいます。自衛隊を辞めるときに、理想の会社へ入り、理想の仕事をし、理想の年収を得なければならない。そんなふうに考えると、転職先の選択肢はかなり狭くなります。
でも、キャリアはそこで終わりではありません。例えば、自衛隊を辞めて、まず民間企業で仕事の経験を積む。そこで数年間働いて、民間企業で評価される実績を作る。その経験を使って、もう一段上のポジションへ移る。そういうルートも十分にあり得ます。
むしろ、自衛隊から初めて民間へ出る人の場合、その方が自然なこともあるでしょう。自衛隊でどれだけ大きな仕事を任されていても、民間企業側から見れば、その経験をどう評価してよいか分からず、本当にその人が民間で通用するか、不安は拭えないことがほとんどです。
そこで一度、民間企業でも通用する実績を作る。それだけで、次の転職では見られ方が変わります。
平均年収を探すより、自分が行きたい場所から逆算する
自衛官から民間企業へ転職すると、年収はいくらになるのか。結局のところ、その質問に一つの数字で答えることはできません。
自衛官だったから高くなるわけでも、必ず低くなるわけでもありません。どの業界へ行くのか。どの職種を選ぶのか。どのポジションで採用されるのか。かなりの部分は、それで決まります。
だから、「元自衛官の平均転職年収」を延々と調べるよりも、自分が欲しい年収はどの市場に存在するのか。その市場で自分は今どの位置にいるのか。足りない経験を何年で埋めるのか。こちらを考える方が、転職にはずっと役に立つと思います。
私自身、結果だけを見れば、自衛隊から民間へ移って年収は上がりました。ただ、重要だったのは「自衛隊を辞めたこと」ではありません。自分がやってきたことを整理して、それを使える仕事へ移り、別の給与レンジに乗れた結果、年収が上がったという構造です。
自衛官から民間へ転職するとき、必ず年収のことを考えると思います。そのとき考えるべきなのは「年収は上がるか、下がるか」だけではありません。
自分はこれから、どの給与レンジに乗りに行くのか。
その視点を持つ方が、ずっと大事だと思います。













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