自衛官の職務経歴書を民間向けに翻訳する方法――「小隊長」「幕僚」だけでは、たぶん伝わらない
転職しようと思って職務経歴書を書こうとしたものの、手が止まる。転職を考えている自衛官なら、一度くらいは経験があるのではないでしょうか。
「小隊長として約30名を指揮」「連隊本部で訓練担当幕僚として勤務」「日米共同指揮所演習に通訳要員として参加」。さて、これをどう書けばいいのか。そのままでは自衛隊を知らない人にはいまひとつ伝わりません。かといって、「30名をマネジメントしました」「企画業務を担当しました」「グローバルな環境で英語を活用しました」などと書き始めると、急に何かが胡散臭くなります。
私自身、自衛隊から民間企業に転職する際、ここにはかなり違和感がありました。自衛隊での仕事はそれほど単純ではないのに、「民間向けに言い換えよう」とすると妙に薄っぺらくなる。小隊長は「マネジャー」、幕僚は「企画職」、通訳要員は「英語力」。いや、そうなんですけど、そうじゃない。
問題は、単語だけを翻訳しようとしていることです。翻訳すべきなのは「小隊長」という言葉ではなく、小隊長として自分が実際に何を考え、誰と調整し、何に責任を持ち、どう仕事を回していたのかという実態です。この記事では、自衛隊での経験をいったん細かく分解し、民間企業にも伝わる形へ組み直す方法を考えてみます。
「小隊長=30名のマネジメント」で本当にいいのか
たとえば、「普通科小隊長として約30名を指揮」という経歴があるとします。転職サイトのノウハウを読めば、「30名規模のチームマネジメント経験」とでも書けばよさそうに見えます。
完全に間違いではありません。ただ、実際に小隊長を務めた幹部なら、少し首をかしげるのではないでしょうか。
小隊の人員配置を、小隊長が一人で独断で決めているわけではありません。各班の事情を一番よく知っているのは班長たちですし、経験豊富な陸曹の意見も重要です。中隊全体の都合もあります。訓練計画も同じで、中隊の運用訓練幹部や他の小隊長と調整しながら、中隊全体の枠組みの中で自分の小隊をどう動かすかを考えます。装備管理も、小隊長が何から何まで直接見ているわけではなく、管理小隊長や各担当者が中心になって回している部分もかなりあります。
では、小隊長は何をしているのか。ここをちゃんと言葉にした方がいいと思います。たとえば、「自分の小隊の状態を把握し、班長や陸曹の意見を踏まえて人員運用を考える。中隊全体の計画や他小隊との関係を見ながら訓練を組み立て、自分の指揮下で行う活動について安全上の責任を負う」くらいまで分解すると、かなり実態に近づきます。
そして面白いことに、ここまで具体的にした方が、かえって民間企業の人にも伝わりやすくなります。単純な「30名をマネジメント」ではなく、現場をよく知る中間リーダーの意見を集約し、上位組織や横並びの組織と調整しながら、自分の組織の運用を決める仕事だったと見えるからです。少なくとも、「30人に号令をかけていた人」という、ちょっと困る理解は避けられます。
まず、自衛隊用語をいったん捨てる
職務経歴書を書くとき、最初からきれいな文章を作ろうとしない方がいいと思います。「普通科小隊長」「第3科運用訓練幹部」「連隊指揮所訓練」といった言葉をいったん横に置いて、まず「そのとき、自分は実際に何をしていたのか」を思い出します。ここからが本当の翻訳です。
たとえば訓練担当の幕僚。「連隊本部において各種訓練の計画・調整を実施」と書くだけなら簡単ですが、実際の仕事はもっと泥臭く、もっと面倒です。上級部隊から要求が来る。中隊側には予定がある。演習場の使用条件もある。使える人員、車両、装備にも限りがある。別の行事と日程がぶつかる。規則上、できることとできないこともある。そうしたものを全部見ながら、「これ、本当に全部成立するのか?」を確認していきます。
必要なら関係部署から情報を集め、計画を修正し、指揮官に説明し、決裁を受けたら各部隊へ展開します。そして実施日まで何も起きなければいいのですが、だいたい何か起きます。人が減る、予定が動く、別件が割り込む。そのたびに再調整です。
これを単に「企画職」と置き換えるのは、やはり無理があります。実態としては、複数部署から情報を集め、制約条件を整理し、関係者を調整しながら組織横断的な計画を成立させ、実施まで管理する仕事と考えた方が近いでしょう。
「何を一番大事にしていたか」も掘った方がいい
自分の経歴を振り返るとき、もう一つ考えた方がいいことがあります。その仕事で、何を一番大事にしていたかです。
自衛隊の幹部ならかなり共通すると思いますが、私の場合はまず安全でした。……と書くと、ものすごく当たり前に見えます。実際、当たり前です。訓練を成立させる以前に、事故を起こさない。怪我人を出さない。車両事故を起こさない。武器や装備の取り扱いで問題を起こさない。安全上のリスクは、事前にできるだけ洗い出して潰します。
もう一つかなり意識していたのが、「仕事を途中で詰まらせないこと」でした。細かく詰めたつもりでも、いざ動かそうとすると、「え、ここ許可いるの?」「その車両、この条件では使えないの?」「別部署との調整、終わってないの?」ということが普通に起きます。なので、関連する規則を先回りして確認し、関係者を少し広めに洗い、どこで止まりそうかを考える。今風に言えば、ボトルネックやチョークポイントを先に潰しておく、ということになります。
民間向けに言い換えれば、「リスク管理」「事前の論点整理」「ステークホルダーの洗い出し」「ボトルネック管理」あたりになるのでしょう。ただ、最初からこの言葉を使うと、急にコンサル資料のようになります。先に実際の行動を思い出し、最後に名前をつける。この順番の方がいいと思います。
トラブル対応から見えること
もちろん、リスクを事前に潰していてもトラブルは起きます。むしろ自衛隊の訓練では、何も起きない前提で考える方が危ないでしょう。
何か起きたときは、まず「何が起きているのか」「何が分かっているのか」「何がまだ分からないのか」を整理します。そのうえで、安全確保と人員・装備の保護に必要な手を打ち、報告を上げる。訓練への影響や他の予定への波及は、緊急度によってはいったん後回しでもいい。場合によっては、そこは上に投げてしまいます。まず目の前の事態を収めることが先です。
ただし、少し長引きそうなら話は変わります。その場に人員を残すなら、食事や宿泊はどうするのか。家庭事情などで交代させなければならない隊員はいないか。交代要員はどう組むのか。翌日の勤務はどうするのか。そうした管理面まで並行して考え始めます。
民間向けに抽象化すれば、インシデント発生時の状況整理、初動対応、エスカレーション、影響管理、長期化を見越した要員配置とでも言えるでしょう。ただ、ここでも最初から横文字を探す必要はありません。自分が実際にどう動いていたのか。そこから出発した方が、説得力があります。
「通訳要員」の経験は、単なる英語力なのか
私自身の経験から、もう一つ例を挙げます。日米共同指揮所演習で、通訳要員として勤務したことがあります。
これを「日米共同業務において英語通訳を担当」と書けば、事実ではあります。ただ、これだけだと「英語が話せる人」で終わってしまいます。現場で求められるのは、単語を右から左へ訳す能力だけではありません。
自衛隊と米軍では、組織も制度も用語も違います。似たような言葉でも、背景にある概念が少し違うことがあります。そして、演習内容そのものを理解していなければ、言葉だけ聞き取れても意味のある通訳にはなりません。
そう考えると、この仕事の本質は、専門領域の内容を理解したうえで、異なる組織・文化の間で意味を正確に橋渡しする仕事だったと言えます。民間企業であれば、海外拠点との会議や海外ベンダーとの調整、外国企業との共同プロジェクトにも通じる部分があります。
「英語ができます」より、「専門性のある内容について、異なる組織間の意思疎通を支援した」とした方が、経験の中身には近いでしょう。
数字は「成果」ではなく「仕事の大きさ」を示すためにも使える
職務経歴書のノウハウを見ると、かなりの確率で「成果は数字で書きましょう」と出てきます。売上20%増、コスト30%削減、処理時間を半分に短縮。民間企業なら非常に分かりやすいです。
ただ、自衛官は困ります。「訓練を前年比123%成功させました」みたいな謎の数字はありません。
ここで無理に成果を作る必要はないと思います。代わりに、何人の部隊だったのか、いくつの部隊が関係したのか、準備期間はどれくらいだったのか、といった仕事の規模や複雑さを示す数字を使えばいい。
「大規模訓練を成功させた」よりも、「複数部隊が参加する訓練について、計画策定から関係部署との調整、実施までを担当。参加人数〇名、準備期間〇か月」とした方が、私はずっと信用できます。
では、職務経歴書にどう書くのか
ここまで整理して、ようやく職務経歴書に戻ります。
小隊長の例
約30名規模の小隊長として勤務。班長・陸曹と隊員の状況を共有しながら人員運用を行い、中隊運用訓練幹部や他小隊長と調整して訓練を計画・実施。活動時には安全上のリスクを事前に洗い出し、事故防止を最優先に部隊を運用しました。
幕僚勤務の例
連隊本部の訓練担当幕僚として、上級部隊からの要求、各部隊の予定、人員・装備・演習場などの制約条件を整理し、関係部署と調整しながら訓練計画を策定しました。指揮官への説明、決定事項の展開、実施までの進捗管理、計画変更時の再調整まで担当しました。
日米共同指揮所演習の例
日米共同指揮所演習に通訳要員として参加。軍事・組織運用に関する専門的内容を理解したうえで、日米双方の関係者間の意思疎通を支援しました。
何かを盛っているわけではありません。自分たちが普通にやっていた仕事を、相手にも見える解像度まで広げただけです。無理に「プロジェクトマネージャー」や「戦略コンサルタント」などと呼び変える必要もありません。正式な役職名はそのまま書き、その下に普通の日本語で「そこで何をしていたのか」を書く。それで十分です。
自分の経歴を掘るときに考えてみてほしいこと
過去の配置を振り返るとき、いきなり「自分の強みは何だろう」と考える必要はありません。まず、その頃の自分が何をしていたかを思い出します。
何を任されていたのか。その仕事で一番大事にしていたことは何だったのか。普段、誰と相談したり調整したりしていたのか。何かを決めるとき、何を見て判断していたのか。どこで仕事が止まりそうか、どう見つけていたのか。トラブルが起きたとき、最初に何を確認したのか。誰に報告し、誰を動かしたのか。自分で決めてよい範囲と、上級者に判断を仰ぐ範囲をどう分けていたのか。
そうやって実務を掘っていくと、「自分はずっと関係者調整をしていたんだな」「何か起きる前に潰すことをかなり考えていたな」「トラブルのときは、まず情報整理と初動をやっていたな」と見えてきます。
そこで初めて、「調整力」「リスク管理」「問題解決」「危機対応」といった名前をつければいい。順番はこちらだと思います。
自衛隊経験を、無理に「ビジネスっぽく」しなくていい
自衛隊の経歴を民間企業向けに書こうとすると、「ビジネス用語に変換しなければ」と思いがちです。でも、そこまで無理をする必要はありません。
小隊長をプロジェクトマネージャーと呼ぶ必要はありませんし、幕僚を戦略コンサルタントと呼ぶ必要もありません。そこまでいくと、だんだん本物から離れていきます。
必要なのは、自衛隊でしか通じない言葉を捨てることではなく、その言葉の内側にあった仕事を説明することです。
自衛隊では当たり前すぎて、自分では価値だと思っていないことも多くあります。事故を起こさないように危険を先に潰す。関係者を早めに押さえる。規則を確認して、後から止まりそうなところを潰す。何か起きたら状況を整理し、安全を確保し、報告し、長引きそうなら人員運用まで組み直す。
やっていた本人からすると、「いや、普通でしょ」で終わります。私もそう思います。
ただ、職務経歴書では、その「普通」を書かない限り、相手には存在しないのと同じです。
だから必要なのは、自分を大きく見せることではありません。自分が何をしていたのかを、面倒くさがらずに一度ちゃんと掘ること。そこからです。
そして、この作業は実際にやるとかなり面倒です。数年前の配置を思い出して、具体的な仕事を洗い出し、何を考えていたかまで掘り、それを民間にも伝わる言葉へ直していく。一人でやると、途中でだいぶ嫌になります。
幸い、今はこの作業を手伝わせる相手がいます。次の記事では、自衛隊経験の棚卸しと民間向けへの翻訳にAIをどう使えばいいのか、逆にAIに何を任せると危ないのか。そのあたりを具体的に考えてみます。














コメントを残す