転職面接では、かなりの確率で聞かれます。
「なぜ自衛隊を辞めたのですか?」
自衛隊から民間企業への転職を考えている人にとって、意外と答えにくい質問です。というのも、退職理由なんて普通は一つではないからです。
仕事がきつかった。転勤が多かった。家庭との両立が難しかった。組織に思うところがあった。このまま自衛隊にいていいのか疑問を持った。別の仕事をしてみたくなった。
だいたい、いろいろ積み重なっています。
ところが転職サイトを見ると、「ネガティブな退職理由はポジティブに言い換えましょう」とよく書いてあります。
私はこの手の話がかなり苦手です……。そして、ただポジティブに加工しただけの話はあっさり面接官に見抜かれます。
本当は転勤がしんどかったのに、「地域に根ざして長期的なキャリアを形成したいと考えました」。仕事が嫌になっていたのに、「新しい環境でさらに成長したいと考えました」などなど、急に全員、志の高いフレッシュなピカピカ新米3尉みたいになります。
もちろん、本当にそう思っているなら何の問題もありません。ただ、わざわざ退職理由をきれいな話に作り替える必要はないと思っています。
この記事で一番伝えたいこと
必要なのは、本音を前向きな話に変換することではなく、本音の中から何を面接で伝えるかを選ぶことです。
私が自衛隊を辞めた理由も、一つではなかった
私の場合も、理由はいくつもありました。家庭、転勤、仕事の負荷、将来性、キャリア。その前から、自衛隊という組織にはかなり諦めがありました。
長くいると、上の人たちが油断しているときの会話を聞くことがあります。そこで出てくるのが人事の話ばかりだったりする。
次はどこのポストが空くとか、あそこは地域手当がついて残業も少ないとか、あの役職は同期で成績がかなり下の人間でもやれていたからおいしいとか。
もちろん、自分の人事や生活を考えること自体は悪くありません。私だって考えます。
ただ、そういう話を延々と聞いていたり、問題のある上司にあたったりすると、「任務をどう達成するか」や「自衛隊をどう良くするか」より、自分がどのコースに乗るかの方がよほど重要なのではないか、と感じるようになりました。
毎日毎日人事異動情報や空きポストをチェックしている中隊長もいました。本人はこっそりやっているつもりでも下にはバレバレで、それはもう士気がだだ下がりです。
ただ、最後に背中を押したのは結婚です。
妻には健康上の事情があり、全国転勤についてきてもらうのは現実的ではありませんでした。そして、それ以上に自分の中で大きかったのが、「自分はこれからも自衛官として危険に臨めるのか」ということでした。
平時の自衛隊で毎日死にそうになっているわけではありません。普段の幹部の仕事なんて、むしろデスクワークと調整が大半です。
でも、有事になれば話は別です。
自衛官である以上、危険な任務に就く可能性そのものからは逃れられません。異動しても、職場を変えても、そこだけは変わらない。私はそれなりに前に出る職種というか、現代戦で真っ先に潰される対空ミサイルの部隊だったので、なおさらでした。
結婚して家庭を持ったことで、私はそこを以前と同じようには受け入れられなくなりました。
乱暴に言えば、「自分、もう戦えないな」……
もっと言うと、「戦いたくない」と思ったわけです。
これが、私にとっては一番大きな退職理由だったと思います。
面接では、本音を全部話したわけではない
では、面接で今書いたことを全部話したかというと、当然そんなことはしていません。
結婚したこと、転勤が難しいこと、自衛官として危険に臨む働き方を続けることに迷いが生じたこと。このあたりは比較的そのまま話しました。
一方で、組織に対して感じていた失望や、内部で見聞きした話まで細かく説明することはしませんでした。
面接で話したこと
- 結婚を機に働き方を考え直したこと
- 全国転勤が家庭との両立上、難しかったこと
- 危険に臨む自衛官という働き方を続けることへの迷い
あえて細かく話さなかったこと
- 組織への失望を生んだ個々の出来事
- 人事や組織文化への細かな不満
- 自衛隊の内部事情を理解しないと伝わらない話
別に「前職批判は面接では絶対NGだから」という就活マナーだけが理由ではありません。単純に、説明しても伝わらないからです。
自衛隊の人事制度、組織文化、自分がどんな立場にいたのか、なぜそこに問題を感じたのか。全部説明しようとすると、退職理由だけで講義が始まります。
面接官もそこまで聞きに来ているわけではありません。知りたいのは、「なぜ辞めるのか」「うちに来て同じ理由ですぐ辞めないか」「次に何をしたいのか」です。
だから私は、本音を隠したというより、本音の中から面接に必要な部分だけを使ったという感覚です。
本音を全部話さないことと、嘘をつくことは違う
面接だからといって、自分の退職理由を全部さらけ出す必要はありません。ただ、存在しない立派な退職理由をわざわざ作る必要もない。
たとえば本当は転勤が大きな理由なのに、
ありがちな回答
「より専門性の高い環境で成長し、社会に貢献したいと考えました」
だけで押し切る。
本当にそう思っているならいいのですが、面接用に後から付け足しただけだと、深掘りされた瞬間にだいたい苦しくなります。
それより、
私なら、まずこのくらいで話します
「結婚を機に今後の働き方を考え直しました。転勤や有事の任務を含め、自衛官としての働き方を家庭と両立するのは難しいと判断しました」
くらいでいいと思います。少なくとも嘘ではありません。
大事なのは、退職理由をきれいにすることではなく、本音のどこまでを相手に伝えるか決めておくことです。
「異動では駄目なのですか?」と聞かれた
私も面接で、「それなら異動では解決できないのですか」という趣旨の質問を受けました。
もっともな質問です。
民間企業なら、今の部署が合わないなら異動すればいい、というケースもあります。ただ、自衛官の場合は違います。
勤務地や部隊が変わっても、自衛官であること自体は変わりません。有事になれば、必要な場所で任務に就く義務があります。
自衛官という仕事そのものを、これからも続けられるのか。
その問いに対して、自分の答えが変わってしまった。
この点は比較的そのまま説明しました。
退職理由を説明すると、次は「では民間ならどこでもいいのか」が来る
そして、ここで終わりではありません。
退職理由を説明すると、当然次の質問が来ます。
「では、自衛隊でなければどこでもいいのですか?」
これには私も少し苦労しました。
もちろん、どこでもよかったわけではありません。自衛隊でやってきたことを、何かしら次の仕事でも使いたいとは思っていました。
人を動かすこと、計画を立てること、関係者と調整すること、リスクを考えること。そういう経験を使いつつ、自分が興味を持てそうな分野を探しました。
実際、教育、農業ベンチャー、警備システム関係、コンサルティング会社など、かなり違う業界を受けています。改めて節操がないようにも見えますね汗
ただ、自分の中では「自衛隊で身につけたことを使いながら、今までとは違う世界で仕事をしてみたい」という軸はありました。
ここで必要になるのが、経験の棚卸しです。
面接では、この4つがつながっていると強い
- なぜ自衛隊を辞めるのか
- 自衛隊で何をやってきたのか
- その経験の何が民間でも使えるのか
- 次に何をやってみたいのか
このあたりがつながってくると、退職理由と志望理由も一本の話になります。
退職理由の説明でやりがちな三つの失敗
1.自衛隊批判になってしまう
辞めようとしている以上、不満が何もない人ばかりではないでしょう。私にもかなりありました。
ただ、組織の問題を延々説明しても、面接官には判断できません。「大変だったんですね」で終わる可能性があります。
2.説明が長くなる
自衛隊の事情は外の人には伝わりにくいので、つい制度や背景から説明したくなります。
と始めると危険です。全部理解してもらう必要はありません。
3.きれいごとに寄せすぎる
「もっと成長したい」「新しいことに挑戦したい」「社会に貢献したい」。
本当にそうならいい。でも、どこかの転職サイトから借りてきただけの回答なら、その人自身の話はほとんど残りません。そして面接官も、そういう話は何百回も聞いています。
まず、20秒で説明できる形を作っておく
私がおすすめするのは、退職理由をまず20秒程度で説明できる形にしておくことです。
文字数なら120文字前後。
私の場合なら、たとえばこうです。
20秒で話すなら
結婚を機に今後の働き方を考え直しました。転勤や有事の任務を含め、自衛官としての働き方を家庭と両立するのは難しいと判断しました。そのため、自衛隊で培った経験を民間で活かそうと転職を決めました。
もちろん、これだけでは細かい事情は伝わりません。でも、それでいいんです。
面接官の頭の中に、「結婚を機に考え直した」「自衛官という働き方を続けるのが難しくなった」「それで民間へ行こうとしている」という大筋が入れば十分です。細かいところは聞かれたら話せばいい。
20秒に削る前に、一度全部書いてみる
ただ、いきなり120文字にしようとすると難しいと思います。先に、本当の退職理由を全部書き出してみる方がいいでしょう。
転勤が嫌だ。家族と暮らしたい。仕事がきつい。上司が嫌い。組織に期待できない。給料に不満がある。将来が見えない。別の仕事をしてみたい。そもそも自衛官を続ける自信がない。
何でも構いません。ここでは人に見せないので、格好をつける必要もありません。
STEP 1 本音を全部書き出す
まずは人に見せる前提を捨てて、辞めたい理由をそのまま書く。
STEP 2 話す範囲を決める
- これは面接でも話す
- 聞かれたら話す
- これは話さない
STEP 3 20秒まで削る
「結局、自分が一番伝えたい大筋は何か」だけを残す。
この準備をしておくと、面接の場で突然「どこまで本音を言おう」と悩まずに済みます。
退職理由を前向きにするより、先に自分の中を整理しておく
自衛隊を辞める理由なんて、そんなにきれいなものばかりではありません。私の場合も、家庭のことがあり、仕事のことがあり、組織への諦めもありました。
それを全部まとめて「新しい環境で成長したかったからです」と言えば、聞こえはいいでしょう。でも、それをやる必要はないと思っています。
正直に話していい。でも、全部話す必要もない。
大事なのは、その線引きを面接の場で初めて考えないことです。
まず、自分がなぜ辞めるのかを全部書いてみる。どこまで話すかを決める。20秒ならどう言うかまで準備する。
そこまでやると、面接対策というより、自分自身の整理になってきます。
- 自分は結局、何が嫌だったのか
- なぜ辞める必要があったのか
- では、次に何をやってみたいのか
その大筋が自分の中でつながっていれば、退職理由を聞かれても、それほど怖い質問ではなくなります。













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