仕事ができる人ほど、AIを「魔法」ではなく「作業補助」として使っている

AIに資料や文章を作らせてみると、最初は驚いて感動すら覚えます。見出しが並び、文章も整っていて、短時間でそれらしい形になるからです。

ところが、実際の仕事に使おうとすると、「一見いい感じなのに、なぜか使えない」ということが起こります。前提が違う。今回の論点からズレている。一般論としては正しくても、目の前の相手には当てはまらない。結局、全体を読み直して、構成から直すことになります。

これは、AIの性能だけの問題ではありません。使う側が、現在の状況、作るべき成果物、解決する論点、AIに渡す作業を切り分けられていないことも大きな原因です。AI活用で差がつくのは、プロンプトの長さではなく、仕事を理解して分解できているかどうかです。

この記事の要点

仕事ができる人は、AIに仕事を丸ごと渡しません。人間が目的と論点を決め、情報を判断し、最終責任を持つ。そのうえで、要約、情報整理、たたき台作成、言い換えといった部分的な作業をAIに任せます。AIの出力は完成品ではなく、仕事を前へ進めるための部品です。

AI活用が進んでも、仕事が楽になるとは限らない

以前、税理士業界でもAI活用が進んでいると聞き、知り合いに実情を尋ねたことがあります。

返ってきたのは、華々しい活用事例とは少し違う答えでした。間違いが多く、そのままでは任せられない。内容をレビューし、体裁も整え直す必要がある。そこまでやると、自分で最初から作ったほうが速いこともある。だから、汎用AIで部分的な作業をさせるくらいがちょうどよい、という話でした。

税務のように、前提条件や個別事情で答えが変わる仕事では、もっともらしい間違いが一番厄介です。明らかにおかしければ、すぐに捨てられます。しかし、専門用語が並び、文章として筋が通っていると、どこが間違っているのかを一つずつ確認しなければなりません。

これは税理士に限った話ではありません。資料作成でも調査でも、AIに大きな仕事をそのまま渡すと、一見よくできたものが返ってきます。しかし、仕事の目的や相手の事情まで理解しているわけではないため、肝心なところでズレます。

AIで差がつくのは、プロンプト力より仕事の分解力

AI活用では、よくプロンプト力が重要だと言われます。もちろん、指示の出し方は大切です。ただ、その前にもっと重要なことがあります。

自分が、何を作ろうとしているのか理解しているかどうかです。

たとえば、「顧客向けの提案資料を作る」という仕事があります。実際には、顧客の状況を理解し、課題を整理し、今回答えるべき問いを決め、必要な情報を集め、伝える順番を考え、最後に文章や図表へ落とし込む仕事です。

これらをすべて「資料作成」と一括りにしてAIへ渡すと、AIは足りない前提を勝手に補います。その結果、一般的には正しいけれど、今回の仕事には合っていない資料ができあがります。

仕事ができる人は、仕事を一つの塊として見ません。何を判断する仕事なのか。何を調べる仕事なのか。何を整理する仕事なのか。何を表現する仕事なのか。工程を分けて考えます。

だから、AIに渡す部分も切り分けられます。論点は自分で決め、そのうえで抜けている観点をAIに出させる。必要な資料を読ませて情報を整理させる。構成を決めたあとで、文章のたたき台を作らせる。この使い方なら、AIはかなり役に立ちます。

一方で、何が問題なのかも分からないまま、「いい感じの提案を作って」と頼んでも、出てくるのは平均的に正しそうな答えです。AIの出力がズレたというより、人間側が進む方向を決めていないのです。

AIに渡せるのは作業であって、責任ではない

AIは、要約や分類、比較、言い換え、たたき台の作成を得意としています。方向性が決まったあとの作業を速く進めることには向いています。

一方で、何を問題と捉えるのか、どの情報を信用するのか、何を相手に伝えるのかといった判断は、人間が持つべき仕事です。

AIは、間違った提案をしても責任を取ってくれません。説明不足で顧客を混乱させても、最終的に責任を負うのは使った側です。

自分が理解していない内容をAIに作らせても、正しいかどうかを判断できません。それでは、AIを活用しているのではなく、AIの出力に賭けているだけです。

仕事ができる人は、AIに判断を丸投げしません。先に自分で論点を定め、判断に必要な材料の整理や、成果物に落とし込む作業をAIに手伝わせます。

AIに仕事を任せるのではなく、自分の仕事の中にAIを組み込んでいるのです。

AIの出力は完成品ではなく、部品として使う

AIを魔法だと思っていると、一度の指示で完成品が出てくることを期待します。期待どおりでなければ、プロンプトを長くしたり、別のAIを試したりします。それでも使えなければ、「AIは仕事では使えない」と感じます。

しかし、実務では、最初から完成品を求めないほうがうまくいきます。

考えを整理するために壁打ちをする。自分では思いつかなかった観点を出させる。文章のたたき台を作らせる。複数の表現を比較する。AIの出力を、仕事を前に進めるための部品として使います。

私自身、AIに文章を書かせる場合も、そのまま完成原稿として使うことはほとんどありません。まず考えていることを伝え、論点を整理させる。出てきた構成に自分の経験や具体例を足す。違和感のある部分を削り、最後に、自分が本当に言いたかった内容になっているかを確認します。

この使い方なら、AIは頼りになります。反対に、自分の考えが曖昧なまま丸ごと書かせると、きれいではあるものの、どこかで読んだような一般論になります。AIが悪いというより、材料となる考えが人間側にないからです。

仕事を知らなくてもAIで何とかなる、ではない

AIによって、仕事の知識がなくても、それらしい成果物を作れるようになりました。しかし、それらしい成果物を作れることと、仕事ができることは同じではありません。

仕事を理解していない人がAIを使えば、それらしい間違いが速く作られます。仕事を理解している人がAIを使えば、判断以外の作業を速く進められます。

AI時代に差がつくのは、魔法のプロンプトを知っているかどうかではありません。現状はどうなっているのか。最終的に何を作るのか。誰が使うのか。今回解くべき論点は何か。そのための工程のうち、どこをAIに渡せるのか。

そこまで考えられて、初めてAIは仕事を助ける道具になります。

仕事ができる人ほど、AIに夢を見すぎません。何でも解決する魔法ではなく、自分の判断を支え、手を動かす作業を減らしてくれる補助者として使っています。

AIを使っている人と、AIで仕事を進められる人。その違いは、プロンプトの上手さより、自分の仕事を理解し、分解できているかどうかにあります。

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りすまる元へっぽこ陸自幹部
元陸自幹部、現在は民間企業のコンサルタント。30代半ばで自衛隊から転職しました。自衛官の転職、生成AIの実務活用、組織や会社員としてのサバイブ術を、自分自身の失敗や試行錯誤をもとに書いています。